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人工的に付けた目印でがんを攻撃する!新たながん治療法を開発 がんを特異的に攻撃する分子標的治療の適応拡大へ

 岡山大学病院低侵襲治療センターの香川俊輔准教授、米国国立がん研究所(NCI)の小林久隆主任研究員らの研究グループは、遺伝子改変ウイルス製剤を用いて、標的抗原のないがんに人工的に標的抗原を発現させ、既存の抗体医薬品を用いた近赤外線光線免疫療法を応用する新たな治療法を開発し、ヒト胃がんを腹腔内に移植したマウスでその効果を実証しました。本研究成果は2月1日、米国の科学雑誌『Molecular Cancer Therapeutics』電子版で公開されました。
 がんを特異的に攻撃する分子標的治療が近年開発されていますが、胃がんなどでは有効な標的が少なく分子標的治療開発が進まないことが問題となっています。標的となる抗原のないがんでも人工的に標的抗原を修飾できれば、既存の標的治療が広く適応できると考えられます。さらに新規分子標的治療として海外で臨床試験が進行中の近赤外線による光線免疫療法を応用することで、がんのみを攻撃する特異性と治療効果を合わせ持つ治療法として幅広く適応できると期待されます。
<本研究のポイント>がんを特異的に攻撃する分子標的治療において、胃がんなどでは有効な標的が少なく、また、標的の発現が不均一であることが治療の大きな障壁となっていた。・ 遺伝子改編ウイルス製剤を用いることで、標的抗原を強制的に発現させることに成功。既存の抗体医薬品と、体に優しい近赤外線を用いる光線免疫療法とを組み合わせた新しい分子標的治療を開発した。さまざまな標的抗原に応用可能と考えられ、治療効果の大幅な向上が期待されるほか、幅広い患者に分子標的治療を届けることが可能になると期待される。
図:標的抗原を強制的に発現させ、既存の抗体医薬品と光線免疫療法を組み合わせた分子標的治療

<背 景>
 胃がんや乳がんでは、HER2というたんぱく抗原が細胞表面に出ており、がん細胞に特徴的であることから、HER2を標的とした抗体医薬品が開発され、臨床で抗腫瘍効果が得られています。ただし、そのような治療が適応できるのは、一部のHER2抗原を表出している細胞だけであり、結果的に抗HER2抗体は胃がん、乳がんの全部を治療できないこと、また、その抗体薬も単独では効果が弱いことが欠点でした。近年、近赤外線が当たると細胞を破壊する光感受性物質を抗体に結合させ、その抗体をがん細胞に運んで治療する光線免疫療法という新たな分子標的治療が開発され、抗体医薬品による抗腫瘍効果の向上が報告されています。

<業 績>
 今回、岡山大学病院低侵襲治療センターの香川俊輔准教授、石田道拡大学院生らの研究グループは、米国国立がん研究所(NCI)の小林久隆主任研究員との共同研究で、遺伝子改変ウイルス製剤により標的抗原たんぱくであるHER2を積極的にがんに発現させることで、本来標的抗原を発現していないがん細胞に対しても、既存の抗HER2抗体薬をがん細胞に到達させて、近赤外線光線免疫療法を応用できることを証明しました。
 本研究では標的抗原としてHER2がモデルとして用いられましたが、ウイルスを用いた標的抗原の人工的発現は、これまで遺伝子治療で培われた技術と同様であり、理論上、さまざまな種類のがん細胞に対して、抗HER2抗体にとどまらず、種々の抗原を標的とした抗体医薬品でも応用可能と考えられます。また有害作用が少なく、体に優しい近赤外線を用いる光線免疫療法との組み合わせで、新しい治療の選択肢が期待されます。

図:遺伝子改変ウイルスを用いて、標的の発現が陰性、不均一のがんに、標的を発現させた。


<見込まれる成果>
 がん治療が進んだ今なお、治療の障壁となっている問題はがんの不均一性です。がんの不均一性とは、同じがんの中でも抗がん剤が効く細胞、効かない細胞があること、例えば分子標的薬の標的となる抗原ががん細胞で出ていたり出ていなかったりする状態を指します。
 本研究成果と遺伝子治療の研究開発で培われた技術を応用することで、標的抗原を強制的に発現できれば、標的のないがん細胞、不均一ながん細胞にも治療を施すことができ、がんを特異的に攻撃する分子標的治療を幅広い患者に届けることが可能になると期待されます。
 今後、臨床応用を目指して、研究を進めていきます。

<論文情報>
タイトル: Trastuzumab-Based Photoimmunotherapy Integrated with Viral HER2 Transduction Inhibits Peritoneally Disseminated HER2-Negative Cancer.著  者: Michihiro Ishida, Shunsuke Kagawa, Kyoko Shimoyama, Kiyoto Takehara, Kazuhiro Noma, Shunsuke Tanabe,Yasuhiro Shirakawa, Hiroshi Tazawa, Hisataka Kobayashi, and Toshiyoshi Fujiwara.掲 載 誌: Molecular Cancer Therapeutics. 2016 Feb 1.DOI: 10.1158/1535-7163.MCT-15-0644

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<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
消化器外科学分野 教授 藤原 俊義
(電話番号)086-235-7257
(FAX番号)086-221-8775
(URL)http://www.ges-okayama-u.com/