岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の江口傑徳助教、藤原敏史大学院生らとハーバード大学医学部のスチュアート・カルダーウッド博士らの共同研究チームは、口腔扁平上皮がん細胞が、分子標的抗体医薬の一種であるセツキシマブを細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EV)とともに分泌することを明らかにしました。この抗体医薬排出現象は「新しい薬剤耐性メカニズム」と目され、7月13日、生化学・生物物理学速報誌 「Biochemical and Biophysical Research Communications」 オンライン版に掲載されました。
頭頚部がんや進行性大腸がんの多くは、上皮成長因子受容体(EGFR)の働きで進行します。このためEGFRを狙い撃ちできる抗体医薬であるセツキシマブが臨床で使われていますが、頭頚部がんの一種である口腔扁平上皮がん細胞にセツキシマブを作用させると、がん細胞の悪性形質転換を抑制できたものの、その抑制効果は不完全でした。
この不完全抑制の原因を探ったところ、口腔扁平上皮がん細胞は、直径150 nm程度の小胞にセツキシマブを載せて細胞外へと分泌することが明らかになりました。
この研究によって明らかになった「がん細胞が、細胞外小胞を使って薬を排出する」という現象は、がん研究、創薬、がん医療に一石を投じるものであり、さらなる研究開発や新たな治療法への応用が期待されます。
◆発表のポイント
- 頭頚部がんの一種である口腔扁平上皮がん細胞に、抗体医薬のセツキシマブを作用させると、がん細胞の悪性形質転換を部分的に抑制できましたが、その抑制効果は不完全でした。
- その原因を探ったところ、口腔扁平上皮がん細胞は、直径150 nm程度の小胞にセツキシマブを載せて細胞外へと分泌することが明らかになりました。
- がん細胞が薬を排出するこの現象は、従来にない「新しい薬剤耐性メカニズム」と目され、さらなる研究開発や新たな治療法への応用が期待されます。
「がん細胞は、小胞を使って抗体医薬を排出するのではないか」という仮説が、現実のものとなってしまいました。攻撃しても、がん細胞は巧みに対応してきました。がん細胞は、自らにとって不利益となるような物質を、排出する特性を有すようです。 | 江口助教 |
■論文情報
論 文 名:Anti-EGFR antibody cetuximab is secreted by oral squamous cell carcinoma and alters EGF-driven mesenchymal transition
掲 載 紙:Biochemical and Biophysical Research Communications
著 者:Toshifumi Fujiwara, Takanori Eguchi, Chiharu Sogawa, Kisho Ono, Jun Murakami, Soichiro Ibaragi, Jun-ichi Asaumi, Kuniaki Okamoto, Stuart K Calderwood, Ken-ichi Kozaki
D O I:10.1016/j.bbrc.2018.07.035
U R L:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X18315304
2016年5月29日に逝去された小崎 健一 教授に深く哀悼の意を捧げます。
<詳しい研究内容について>
がん細胞が細胞外小胞を使い、分子標的抗体医薬を排出することを発見
<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
助教 江口 傑徳
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