国立大学法人 岡山大学

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病原細菌の感染と薬剤耐性の獲得に関わるS-S架橋形成メカニズム解明~病原菌を殺さずに無毒化する対感染症の新戦略~

2019年02月21日

◆発表のポイント

  • 抗生物質に対する耐性菌の存在は医療の大きな脅威となっており、耐性菌の発生を防ぐため、病原菌を殺さずに無毒化する新しい対感染症戦略が求められています。
  • 病原細菌は、感染や薬剤耐性の獲得の際などにべん毛や繊毛といった巨大タンパク質構造物を使用しますが、それらを構築するのに必要な酵素DsbAについて、機能するメカニズムや、特徴的な深い溝構造を形成することを明らかにしました。
  • 多剤耐性の出現と拡散の根源的な解決に貢献することが期待できます。
  •  抗生物質に対する耐性菌の存在は医療の大きな脅威となっており、耐性菌の発生を防ぐため、病原菌に淘汰圧をかけずに無毒化する新しい対感染症戦略が求められています。
     病原細菌はべん毛や繊毛、毒素注入器(注2)などの巨大タンパク質構造物を細胞表面に構築して、宿主への感染、薬剤からの忌避、さらに薬剤耐性の異種間伝播に用いますが、その構築にはタンパク質分子内のシステイン残基間に正しくジスルフィド(S-S)架橋を作る仕組みが必要で、酵素DsbAがその役割を担います。岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)の田村隆教授は、DsbAの酸化力をチューニングするタンパク質工学の技術を開発して、酸化力の異なるDsbAを発現させた大腸菌によるFピリ(性繊毛)形成量を調査しました。その結果、DsbAが高い活性を発揮するための要件として、基質に結合する際に深い溝が形成されることを明らかにしました。この成果は2018年12月18日に欧州の国際学術誌「Biochimica et Biophysica Acta - Proteins and Proteomics 」のオンライン版に掲載されました。
     本研究で同定されたDsbAの構造変化を製薬の標的とすれば、病原菌を殺さずに病原性因子を解体させることが可能になります。この発想は、社会的問題化している多剤耐性の出現と拡散を根源的に解決できると期待できます。

    ◆研究者からのひとこと

     DsbA研究は2000年に着手した課題で、18年間の研究を経て1つの論文になりました。修論研究生5人と卒論研究生2人のリレーで継続してきました。データが蓄積するほど謎は深まり、立てた仮説がことごく打ち砕かれる期間が長く続きました。ある時、自分も含めてこの分野の研究者が見落としている巨大な溝が存在することに気づいたのです。そして岡山大学情報統括センターのスパコンを駆使して、実験の結果を説明できる溝形成の仕組みやその容積を明らかにすることができました。溝が出現する仕組みは病原菌を殺さずに無毒化させる「酵素の鍵穴」として役立つのです。
    田村教授

    ■論文情報
    論 文 名:Redox-tuning of oxidizing disulfide oxidoreductase generates a potent disulfide isomerase
    掲 載 紙:Biochimica et Biophysica Acta - Proteins and Proteomics
    著  者:Shinya Sutoh, Yuko Uemura, Yuko Yamaguchi, Asako Kiyotou, Rena Sugihara, Makiko Nagayasu, Mihoko Kurokawa, Koreaki Ito, Naoki Tsunekawa, Michiko Nemoto, Kenji Inagaki, Takashi Tamura
    D O I:doi.org/10.1016/j.bbapap.2018.12.005
    U R L:Redox-tuning of oxidizing disulfide oxidoreductase generates a potent disulfide isomerase

    <詳しい研究内容はこちら>
    病原細菌の感染と薬剤耐性の獲得に関わるS-S架橋形成メカニズム解明~病原菌を殺さずに無毒化する対感染症の新戦略~

    <お問い合わせ>
    岡山大学大学院環境生命科学研究科
    教授 田村 隆
    (電話番号・FAX)086-251-8293・086-251-8388

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