国立大学法人 岡山大学

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ヒザラガイの「磁石の歯」形成に関わるタンパク質を同定―磁鉄鉱の環境に優しい合成法に生かせる可能性―

2019年02月21日

◆発表のポイント

  • 細菌や鳥、魚などの生物体内から磁鉄鉱(Fe3O4)が発見され、報告されていますが、細菌以外の生物が磁鉄鉱を形成する仕組みはこれまで不明でした。
  • 世界で初めて、磁鉄鉱の歯を持つヒザラガイの遺伝子・タンパク質の網羅的解析を行い、磁鉄鉱の形成に関わると考えられるタンパク質群の同定に成功しました。
  • ヒザラガイによる磁鉄鉱形成の仕組みを明らかにすることができれば、磁気メモリや二次電池の材料として用いられている磁鉄鉱を、穏和な条件下で合成する新しい方法を開発できる可能性があります。

 磁鉄鉱は、通常、高温・高圧のマグマから形成される火成岩の一成分として環境中に分布しています。ヒザラガイは、磁鉄鉱を生体内の穏和な条件下において形成するため、タンパク質などの生体分子を使って鉄の濃縮や酸化還元を制御していると考えられますが、そのプロセスは十分に解明されておらず、どのタンパク質がその機能を担っているか、明らかにされていませんでした。
 岡山大学大学院環境生命科学研究科の根本理子特任助教はカリフォルニア大学リバーサイド校のDavid Kisailus教授との共同研究で、世界最大のヒザラガイ、オオバンヒザラガイを用いて、初めてヒザラガイの歯組織の大規模な発現遺伝子カタログを作製しました。さらに、それを利用して磁鉄鉱の歯に含まれ、その形成に関わると考えられるタンパク質群を同定することに成功しました。この成果は1月29日、イギリスの国際学術誌「Scientific reports」のオンライン版に掲載されました。
 本成果はヒザラガイ類では初めての分子生物学的方法を用いた研究によるものであり、これを基盤に、今後ヒザラガイによる磁鉄鉱形成メカニズムの解明に向けた研究がさらに加速することが期待されます。また、ヒザラガイの仕組みを模倣した、環境に優しい、磁鉄鉱の低温合成法の開発にもつながると考えられます。

◆研究者からのひとこと

 ヒザラガイの歯は生物がつくる鉱物の中で最も硬く、高強度材料の開発という観点からも注目されています。ヒザラガイはその硬い歯を使って岩の上の藻を削り取る際に、岩にかじり跡を残します。私もバイオミネラリゼーション(生物による鉱物形成)の分野に、少しでもかじり跡を残したいと思い日々研究をしています。本研究の全ての共同研究者と、研究のために犠牲になったヒザラガイに感謝します。
根本特任助教

■論文情報
 論 文 名:Integrated transcriptomic and proteomic analyses of a molecular mechanism of radular teeth biomineralization in Cryptochiton stelleri
 掲 載 紙:Scientific reports
 著  者:Michiko Nemoto、 Dongni Ren、 Steven Herrera、 Songqin Pan、 Takashi Tamura、 Kenji Inagaki David Kisailus
 D O I::10.1038/s41598-018-37839-2
 U R L:https://www.nature.com/articles/s41598-018-37839-2

<詳しい研究内容はこちら>
ヒザラガイの「磁石の歯」形成に関わるタンパク質を同定―磁鉄鉱の環境に優しい合成法に生かせる可能性―


<お問い合わせ>
岡山大学大学院環境生命科学研究科
助教(特任) 根本理子 
(電話番号) 086-251-8303
(FAX) 086-251-8388

Department of Chemical and Environmental Engineering、 University of California、 Riverside
Prof. David Kisailus 
(電話番号)+1-951-827-4310

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