国立大学法人 岡山大学

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適度な運動ストレスは関節軟骨を元気にする

2013年07月02日

 岡山大学病院整形外科の古松毅之助教らの研究グループは、「適度なメカニカルストレスはさまざまな転写因子のはたらきを活性化することで、軟骨様細胞における細胞外基質産生を飛躍的に亢進させる」ことを明らかにしました。本研究成果は2013年4月28日に国際英文科学雑誌『Journal of Biomechanics』に掲載されました。
 現在、「寝たきり」や「要介護」の3大要因のひとつとされる運動器の障害「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」が注目されていますが、変形性膝関節症や骨粗鬆症に代表されるロコモ関連患者数は増加の一途をたどっています。1秒間に1歩。膝に無理をせずゆっくりと歩くことで、関節軟骨が元気になるものと予想されます。適度なストレスを軟骨にかけて運動することでロコモと決別し、世界の長寿大国である日本で、世界に誇る「健康寿命」を手に入れましょう。
 みなさんが歩く時、体重の3倍の重さが膝にかかっていることを知っていますか?
 膝を痛めて整形外科を受診される方の多くは、「体重を減らしましょう」と医師に言われているかもしれません。しかし、無理な運動をして適正体重にまで減らそうとすれば、膝はもっと悪くなります。体重が減れば嬉しいでしょうが、第一段階としては、体重が増えなければいいのです。
 美術館で絵を鑑賞しながらゆっくりと歩く自分を想像してみてください。1秒間に1歩。このリズムで、軟骨にゆったりとストレスをかけてあげるのが最高です。
 私たちの研究から、「適度な運動ストレスが軟骨を元気にしてくれる」ということがわかってきました。1秒間に1歩のリズムで細胞が引っ張られると、関節軟骨の主要成分であるII型コラーゲンが湧き出してくるのです。ただしそのためには、II型コラーゲンをつくり出すための役者がそろわなければなりません。ゆっくりと歩くリズムのストレスが細胞に伝えられると、主役である転写因子SOX9(ソックスナイン)が細胞核の中で演じ始めるのです。もちろんヒロインとなる細胞内シグナルSmad3(スマッドスリー)も核の中に飛び込んできて、SOX9のはたらきを盛り上げます。適度なストレスが細胞に伝わることで、普段は落ち着いた演技をみせる成長因子CCN2やTGF-βも、細胞外で躍動しはじめます。そしてII型コラーゲンが次から次へとつくり出されるようになります。
 1秒間に1歩。膝に無理をせず、ゆっくりと歩くことを楽しむ習慣をつけましょう。そうすれば細胞に適度な運動ストレスが伝わり、放っておいてもII型コラーゲンをつくり出してくれます。もうサプリメントに頼らなくてもいいかもしれませんよ。

Ⅱ型コラーゲンを作り出すための役者たち

<出典>Furumatsu T, et al. Tensile strain increases expression of CCN2 and COL2A1 by activating TGF-β-Smad2/3 pathway in chondrocytic cells. J Biomech. 2013, 46, 1508-15.より改変

<補 足>
 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費(No. 23592216)と中冨健康科学振興財団研究助成の助成を受け実施しました。

発表論文:Furumatsu T, Matsumoto E, Kanazawa T, Fujii M, Lu Z, Kajiki R, Ozaki T. Tensile strain increases expression of CCN2 and COL2A1 by activating TGF-β-Smad2/3 pathway in chondrocytic cells. J Biomech. 2013, 46, 1508-15; (doi: 10.1016/j.jbiomech.2013.03.028)

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
岡山大学病院 整形外科 助教
(氏名)古松毅之
(電話番号)086-235-7273
(FAX番号)086-223-9727
(URL)//www.okayama-u.ac.jp/user/med/orthop/japanese/index.htm

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