国立大学法人 岡山大学

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微生物が作る酸化鉄から独創的エコ機能材料・シリカチューブを世界で初めて開発

2013年07月16日

 本学大学院自然科学研究科(無機材料学研究室)の高田潤特任教授の研究グループは、地下水が湧き出る水辺で微生物が作る従来不要物とされていた酸化鉄を原料として、ナノ粒子から構成される人工的に作製困難なシリカ・マイクロチューブ材料を開発し、これが有機合成反応で優れた触媒活性を示すことや様々なガスの吸着機能が高いことを世界で初めて見出しました。本研究成果は、2013年5月13日、米国の科学雑誌『ACS Applied Materials & Interfaces』に掲載されました。
 微生物が作る酸化鉄には様々な種類や形状のものがあり、今後これらの酸化鉄由来のシリカ材料の機能開拓を進めれば、未利用の酸化鉄から全く新しい未来機能材料が創りだせるものと期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科の高田潤特任教授、橋本英樹助教(共にJST-CREST「元素戦略」)を中心に、同研究科の黒田泰重教授、板谷篤司助教(分子科学専攻)、妹尾昌治教授、工藤孝幸助教(化学生命工学専攻)らの共同研究グループ13人は、約6年かけて微生物が作る酸化鉄から多孔質シリカを作る種々の処理ならびに得られたシリカ材料の特徴と機能を詳細に検討した結果、人工的に化学合成できない優れた機能を持つ新しいシリカ・マイクロチューブの作製に成功しました。
 新規多孔質シリカ・マイクロチューブ(直径:約0.93μm)は、図1に示したように、微生物由来の酸化鉄マイクロチューブを水素中で還元して金属鉄粒子が析出したシリカチューブを作製した後、酸処理によって鉄を溶解・除去して得られます。
 この材料は、従来嫌われモノであった、地下水が湧き出る場所(湧水や溝など)で微生物が常温で作る天然の酸化鉄チューブを原料とし、還元処理と酸処理によって作り出されるエコな機能材料です。また、純粋なシリカ材料では見られない強い酸点(水酸基)を持っているばかりでなく、その酸性度は高温でも維持される大きな特徴があります。
 今回のシリカ・マイクロチューブはエポキシドの開環反応やフリーデル・クラフツアルキル化反応等の基本的な酸触媒として高活性であり、亜酸化窒素(N2O)などのガスを吸着する能力にも優れています。
 この様に、今回開発した新規多孔質シリカ・マイクロチューブは、微生物由来の酸化鉄チューブを出発物としているため、独特の形状と特異なナノ構造を持ち、強い酸点を有するものと推測され、ある種の化学反応の固体触媒として、従来材料よりも優れた触媒活性を示すと考えられます。
 現在までのシリカ材料としては化学合成、鉱物由来、植物由来(バイオマス)の多種多様な材料が知られています。中でもシリカチューブとして、六角柱状のシリカナノチューブが蜂の巣のように並んだMCM-41は高機能なシリカ材料として有名ですが、今回開発のシリカは、それと比べ酸点の酸性度の強さが著しく強いものとなっています。


・左:電子顕微鏡写真(SEM像)は出発物質の鉄酸化細菌由来の酸化鉄
・中央:水素で還元した後の像で,赤丸で代表的に示した白い塊は還元処理で析出した金属鉄
・右:今回開発したシリカ・マイクロチューブ

図1 シリカ・マイクロチューブ作製の模式図

<見込まれる成果>
 今回の材料は、従来のシリカ材料とは全く異なった原料と作製方法で作られた新規なエコ材料であります。従って、未開拓材料と位置付けられるので、今後更に幅広く機能探索を進めれば、他の反応系の触媒活性やガス吸着能が見出されることが期待されます。更に予想を超えた機能の発見の可能性もある魅力的な材料です。
 また、自然界には水に溶けている鉄を酸化する様々なバクテリアが地下水の湧き出る場所(湧水や溝など)に生息しており、多様な形態(例えばリボン状や鞘状)の酸化鉄(シリコンを含んでいる)を作ることが知られています。
 これらの微生物由来の酸化鉄からこれまでにないユニークな多孔質シリカ材料の作製も可能です。得られる新規シリカ材料は未知でありますが、今回と同様の優れた性質を示すことが期待できます。つまり次世代の多孔質シリカ材料の可能性を秘めています。

<補 足>
  自然界の地下水が湧き出る場所(湧水や溝など)では、地下水中に溶けている鉄を酸化して生命活動をしている鉄酸化細菌(バクテリア)が多数生息しています。これらのバクテリアが酸化した鉄は酸化鉄を形成し、それらが集団として集まって水中に褐色の酸化鉄沈殿物を形成します。あるバクテリアは、中空のチューブ形状の酸化鉄を作ります。チューブの形成過程で地下水中のシリコンを20%程度取り込みます。この褐色沈殿物は身近に頻繁に観察されますが、美観を損ない不要なものであって、従来は嫌われモノでした。
私達のグループでは、この不要廃棄物の褐色沈殿物の酸化鉄が機能性材料になるのではないかと考えて、約15年前から研究を始めたところ、様々な驚くべき機能(植物成長促進、触媒活性など)を見出すことができました。その常識を超えた独創性が世界から注目されています。
  今回の発見は、これらのバクテリアが作るチューブ状酸化鉄から、チューブ形状を維持したまま鉄だけを除去し、人工的には作ることのできない特徴を持つマイクロチューブ状の多孔質シリカ材料を世界で初めて作りだしたことです。

<脚注説明>
・シリカ:二酸化ケイ素(SiO2)をいい、石英などの結晶性のものとシリカゲルなどの非結晶性(アモルファス)のものがあります。触媒や吸着剤、食品添加物、化粧品・医薬品への添加等に用いられています。今回開発のシリカ・マイクロチューブは非結晶性です。
・マイクロチューブ:マイクロメーターサイズの直径をもつチューブ
・1μm(マイクロメーター): 千分の1mm (1/1000 mm)
・酸点:通常、固体表面上において酸性を有する点のことをいい、ここではシリカ・チューブ表面上にある、酸としての性質(プロトンH+を供与する)をもつ水酸基を指します。
・多孔質:多数の小さな孔(細孔)をもつこと

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:H. Hashimoto, A. Itadani, T. Kudoh, S. Fukui, Y. Kuroda, M. Seno, Y. Kusano, Y.I keda, Y. Benio, T. Nanba, M. Nakanishi, T. Fujii, and J. Takada. Nano-Micrometer-Architectural Acidic Silica Prepared from Iron Oxide of Leptothrix ochracea Origin. ACS Applied Materials & Interfaces, vol.5, issue. 11, pp. 5194-5200. (doi: 10.1021/am401029r)

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科 無機材料学研究室 特任教授
(氏名)高田 潤
(電話番号)086-251-8106
(FAX番号)086-251-8106
(URL)http://achem.okayama-u.ac.jp/iml/takadalab/index.html

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