◆発表のポイント
- 瀬戸内海のごく限られた自然海岸に生息している無腸動物(腸が無い!)の一種であるナイカイムチョウウズムシの刺激受容応答機構の一端を明らかにしました。
- 本種の孵化後発達段階における重力感知機能の獲得に,平衡胞(ヒトの内耳に相当)と神経系の発達が重要なカギになることを示しました。現在,刺激受容の分子機構の解析を進めています。
- 近縁種として地中海と北米東海岸でその生息が確認されています。今後は,各種間の生理機能と生息環境の違いを指標としてローカルとグローバルを繋ぐ共同研究に広げていく予定です。
岡山大学学術研究院教育学域(理科教育)の安藤元紀教授と大学院環境生命科学研究科博士課程の坂上登亮大学院生の研究グループは,無腸動物に備わる平衡胞と神経系の同時三次元的解析を可能とする新しい手法を開発し,本種の重力感知に関わる刺激受容応答機構の一端を明らかにしました。これらの研究成果は4月9日,国際誌「Zoomorphology」(Springer Nature)の電子版に掲載されました。
無腸動物は左右相称動物でありながら,脳・肛門・体腔を欠損する体制を有し,系統進化学的に注目を集めています。本研究で用いた無腸動物の一種「ナイカイムチョウウズムシ」は瀬戸内海沿岸の限られた自然海岸に生息しています。一般にはほとんど知られていません。本研究では,本種に備わる重力走性獲得過程および平衡胞(重力感知器官)とそれを制御する神経系との関係を調べ,孵化後発達段階において重力走性能が獲得されること,その間平衡胞の構成細胞が変化すること,およびこれまでに報告の無い神経経路が存在することを明らかにしました。
予備調査研究から,哺乳類で機能する機械刺激受容に関する候補分子が既に数種類見つかっており,現在その発現部位の解析を進めています。今後の本研究の進展により,左右相称動物の平衡覚の起源に迫る分子機構の解明が期待されます。
◆研究者からのひとこと
大学院生の坂上さんを中心に研究室一丸となって取り組んできた研究成果をやっと報告することができました。ナイカイムチョウウズムシは瀬戸内海固有種です。瀬戸内海に機軸を置きつつ,近縁種の研究を進めている国内外の研究者と連携を進めていく予定です。無腸動物を通して,世界と岡山の類まれな自然環境の維持・保全にも貢献できればと考えています。 | 安藤 教授 |
■論文情報
論 文 名:Structural analysis of the statocyst and nervous system of Praesagittifera naikaiensis, an acoel flatworm, during development after hatching.
掲 載 紙:Zoomorphology
著 者:Tosuke Sakagami, Kaho Watanabe, Risa Ikeda and Motonori Ando
D O I:10.1007/s00435-021-00521-9
U R L:https://link.springer.com/article/10.1007/s00435-021-00521-9
<詳しい研究内容について>
岡山と世界を繋ぐ「無腸動物」の不思議!~ナイカイムチョウウズムシの環境応答機構の解明~
<お問い合わせ>
学術研究院教育学域(理科教育)
教授 安藤 元紀
(電話番号)086-251-7753
(FAX)086-251-7755
(URL)https://edu.okayama-u.ac.jp/~rika/cell_physiology/index.html