国立大学法人 岡山大学

LANGUAGE
ENGLISHCHINESE
MENU

最終普遍共通祖先LUCAの炭素代謝経路を支配する新たな速度論的仮説〜速度論的競合が生み出す炭素代謝経路の多様性〜

2021年10月22日

◆発表のポイント

  • 還元的アセチルコエンザイムA(rACoA)経路と還元的トリカルボン酸(rTCA)経路は、最終普遍共通祖先から初期に分岐した細菌・古細菌に存在する、CO2から有機物を作り出す最古の反応経路として知られている。
  • 炭素代謝の化学反応シミュレーションを用いて、これら二つの経路が一つの細胞内に共存すると、化学反応同士の競合により、部分的に抑制されたTCA経路が出現することを見出した。
  • 進化の過程において、この様な化学反応効率の低下を回避する事を「速度論的仮説」として提案し、深部分岐細菌および古細菌において矛盾しないこと確認した。

 岡山大学異分野基礎科学研究所の墨智成准教授と豊橋技術科学大学IT活用教育センターの原田耕治准教授は、始原的な独立栄養嫌気性好熱細菌Thermosulfidibacter takaiiの炭素代謝に関する反応速度論的ネットワークモデルを開発しました。従来酸化方向にしか反応が進まないと考えられてきたクエン酸合成酵素に依存したT. takaiiの還元的トリカルボン酸(rTCA)回路は、二酸化炭素(CO2)固定反応による独立栄養成長を可能にすることを、反応速度論的シミュレーションにより実証しました。
 さらに本モデルによるシミュレーションを用いて、rTCA回路と並び最も古いCO2固定経路として知られている還元的アセチルコエンザイムA(rACoA)経路の単一細胞内での共存が、rTCA回路の一部のフラックスを強く抑制した新たな回路を生み出すことを実証しました。この様な化学反応同士の競合による新たな炭素代謝経路の出現は、最終普遍共通祖先(LUCA)においても成立していた可能性が示唆されます。実際、rACoA経路が存在し、アセチルコセンザイムA(ACoA)がrTCA回路へ流入する独立栄養生物では、完全なrTCA回路の代わりに還元的TCA部分経路あるいは酸化的TCA部分経路が新たなTCA経路として出現することを、深部分細菌および古細菌において確認しました。
 本速度論的仮説はrTCA回路にACoA流入をもたらす他のCO2固定経路(ジカルボキシレート/4-ヒドロキシ酪酸(DC/4-HB)経路、3-ヒドロキシプロピオン酸/4-ヒドロキシ酪酸(3-HP/4-HB)経路、還元的グリシン(rGly)経路)との共存も含め一般化が可能であり、これらを有する細菌および古細菌における多様なTCA経路の系統発生を理解する上で、今後重要な役割を果たしてゆくことが期待されます。
 本研究は日本時間10月22日18時に、Springer Natureの化学専門誌「Communications Chemistry」にオンライン掲載されます。

◆研究者からのひとこと

LUCAはrACoA経路を使ってCO2から必要な全ての有機物を自ら合成する独立栄養生物であると推定されています。従って、炭素代謝の進化の追跡が、微生物の進化の探究に繋がってゆくはずです。まずは始原的なT. takaiiの炭素代謝に関する反応速度論的モデルを開発し、rACoA経路が共存する場合、rTCA経路上で化学反応の部分的阻害が生じるという、以前の研究とは異なる予想外な結論が導かれました。この発見がベースとなり、炭素代謝経路同士の速度論的競合が内部選択圧になり新たな炭素代謝経路の出現を可能にするという、新たな速度論的仮説の提案に至りました。
墨准教授

原田准教授

■論文情報
論文名: Kinetics of the ancestral carbon metabolism pathways in deep-branching bacteria and archaea
掲載誌: Communications Chemistry
著 者: Tomonari Sumi, Kouji Harada
D O I: 10.1038/s42004-021-00585-0
発表論文はこちらからご確認いただけます。
URL: https://doi.org/10.1038/s42004-021-00585-0


<詳しい研究内容について>
最終普遍共通祖先LUCAの炭素代謝経路を支配する新たな速度論的仮説〜速度論的競合が生み出す炭素代謝経路の多様性〜

<お問い合わせ>
岡山大学異分野基礎科学研究所
准教授 墨 智成(すみ ともなり)
(電話番号) 086-251-7837

年度