国立大学法人 岡山大学

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食われる側も工夫する:異なる天敵には違う捕食回避戦略を使う甲虫~フリーズか、それとも死を装うのか?~

2022年02月07日

◆発表のポイント

  • これまでの生物の研究では、食われるものが食うものに対抗する捕食回避術には、一連の行動パターンがあり、敵と対峙すると最初にフリーズし、それでも敵が攻撃してこようとすると、最後の手段として死んだふりをして死を装うと考えられてきました。
  • ところが微小甲虫を用いた私達の研究では、襲う天敵の種類によって食われる生物は、敵に対する戦術を変えていることが世界で初めてわかりました。
  • 今回の成果は動物の対捕食者行動の研究分野で従来の常識を覆す新しい発見となりました。

 岡山大学学術研究院環境生命科学学域(農)の宮竹貴久教授らの研究グループは、米・小麦類の世界的重要害虫である微小甲虫のコクヌストモドキにおいて異なる種類の天敵が襲ったときに、天敵によって回避する行動戦術を変えることを発見しました。これまで食われるものが食うものに対抗する微小甲虫の捕食回避術として、まずじっと動かなくなりフリーズし、次に場合によっては反撃に転じたり逃げたりし、最後の手段として死んだふりをすると考えるのが定説でした。
 これまでの研究でも本種は、追撃型の天敵であるハエトリグモに襲われるとフリーズせずすぐに死んだふりをすることが明らかにされていましたが、今回の研究では待ち伏せ型の天敵であるコメグラサシガメを与えたところ、死んだふり行動はまったく見られず、フリーズして天敵をやり過ごす戦術に徹底しました。つまり体長5ミリにも満たないこの微小甲虫は、攻撃してくる敵のタイプによって、フリーズするか、死んだふりをするのかを使い分けることが世界で初めて明らかとなりました。フリーズと死を装うという2つの行動は、少なくとも本ケースでは、ドーパミンを介した対捕食行動間の多面発現によって異なる捕食者に対する行動スイッチが入ると考えられます。
 本研究成果は、2月7日米国時間午前9時(日本時間7日午後11時)に米国のオンラインオープンアクセス科学雑誌「Ecology and Evolution」(Wiley Publishing Group)に掲載されます。

◆研究者からのひとこと

昆虫の行動や生態をじっくりと観察することは大切です。ゲノム科学が飛躍的に進んだ今こそ、この原点回帰の観察は世界の誰も明らかにしていない発見に繋がる可能性を秘めています。それがいつかは人の暮らしの役に立つこともあるのです。大切なのは面白がって調べること。それは人生を豊かにしてくれる秘訣でもあると僕は思います。
宮竹教授

■論文情報
論 文 名:Freezing or death feigning? Beetles selected for long death feigning showed different tactics against different predators
邦題名「フリーズか、それとも死を装うか?長時間の擬死を育種した微小甲虫は、捕食者ごとに異なる回避戦術を示した」

掲 載 紙:Ecology and Evolution
著  者:Masaya Asakura, Kentarou Matsumura, Ryo Ishihara, Takahisa Miyatake
D O I:10.1002/ECE3.8533
U R L:https://doi.org/10.1002/ece3.8533

<詳しい研究内容について>
食われる側も工夫する:異なる天敵には違う捕食回避戦略を使う甲虫~フリーズか、それとも死を装うのか?~


<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院環境生命科学学域(農)
教授 宮竹 貴久
(電話番号)086-251-8339

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