国立大学法人 岡山大学

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癌の協力者が免疫回避の一翼を担う?〜ミャンマー人留学生が異国の地で快挙〜

2022年02月17日

◆発表のポイント

  • 口腔癌細胞に影響を受けた癌間質細胞が、CCL2を分泌することで癌組織に骨髄由来免疫抑制細胞を動員することを発見しました。
  • 動物実験で、CCL2を抑制すると、腫瘍組織における骨髄由来免疫抑制細胞の動員が抑えられ、癌間質細胞同士の協力を阻害することができました。
  • 癌免疫療法の成功率を上げるヒントとなる可能性があります。

 岡山大学学術研究院医歯薬学域口腔病理学分野(長塚仁教授)の河合穂高助教とミャンマー人留学生のメイ ワト ウ 大学院生の共同研究グループは、口腔癌細胞の影響を受けた間質細胞が、CCL2を介して免疫を阻害する骨髄由来細胞を腫瘍組織に呼び寄せ、腫瘍免疫を抑制することを発見しました。これらの研究成果は1月11日に、米国の医学系雑誌である「JCI-insight」にResearch Articleとして掲載されました。
 近年、癌組織に存在する癌の影響を受けた一部の間質細胞(線維芽細胞や腫瘍血管などの非癌細胞)は、癌細胞を助け、より病気の進行を早めることが知られています。さらに厄介なのは、腫瘍は骨髄から細胞を動員することで、免疫抑制や腫瘍の悪性化に役立てています。本研究では、癌に影響を受けた間質細胞が、CCL2という炎症性物質を放出して骨髄由来細胞を腫瘍組織に動員し、免疫抑制に寄与していることを明らかにしました。この発見は、癌の協力者たる間質細胞が、新たな癌の協力者を腫瘍組織に呼び寄せていることを意味し、新しい癌の病態の一面を明らかにしたものです。この研究結果は、癌細胞に特化した治療の限界や、癌の協力者同士の関係性を断ち切るような新たな治療法の確立の重要性など、今後の癌治療を考える上で重要な成果と言えます。
 また、本論文を筆頭著者であるメイさんは、ミャンマーから来た留学生です。彼女は、留学中に日本で祖国のクーデターを経験しました。祖国に帰れず、本人にできることも限られる中、懸命に研究に取り組み論文を完成させました。この論文には、祖国のためになればという彼女の強い想いと、未来への熱い希望が込められています。

◆研究者からのひとこと

Cancer is a challenge to human beings and is histologically sophisticated. I conducted oral cancer research, and I was surprised that we found how the resident stroma-secreted factors are important in oral cancer. I would like to continue research and contribute my work to the future of humanity.
メイ ワト ウ
多くの先生方の力を借りて、癌の「チームワーク」の一端を明らかに出来ました。これからも、人間のチームワークで癌の病態を解き明かしていきたいです。
河合 助教

■論文情報
論 文 名:Resident stroma-secreted chemokine CCL2 governs myeloid-derived suppressor cells in the tumor microenvironment
掲 載 紙:JCI insight
著  者:May Wathone Oo, Hotaka Kawai *, Kiyofumi Takabatake, Shuta Tomida, Takanori Eguchi, Kisho Ono, Qiusheng Shan, Toshiaki Ohara, Saori Yoshida, Haruka Omori, Shintaro Sukegawa, Keisuke Nakano, Kuniaki Okamoto, Akira Sasaki, and Hitoshi Nagatsuka
D O I:10.1172/jci.insight.148960
U R L:https://insight.jci.org/articles/view/148960

<詳しい研究内容について>
癌の協力者が免疫回避の一翼を担う?〜ミャンマー人留学生が異国の地で快挙〜


<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域 口腔病理学分野
助教 河合 穂高
(電話番号)086-235-6651

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