国立大学法人 岡山大学

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アルツハイマー病における「交通渋滞」解消の可能性~病態特異的な小胞輸送障害機構の解明と新規治療標的としての期待~

2022年03月17日

◆発表のポイント

  • アルツハイマー病(AD)の発症機構として、細胞内の物質運搬を司る小胞輸送に障害が起こるとする「交通渋滞仮説」が提唱されていましたが、その機構は明らかではありませんでした。
  • 本研究では、ADモデル細胞・動物内に病因分子βCTFが蓄積し、小胞輸送の制御に関わる脂質輸送酵素「リピッドフリッパーゼ」の構成因子TMEM30Aと結合することを発見しました。
  • そして、βCTFとTMEM30Aの結合により、リピッドフリッパーゼの酵素形成・活性が抑制され輸送障害を引き起こし、βCTFに結合するペプチドT-RAPがADにおける小胞輸送障害改善効果を持つ可能性を示しました。
  • 本研究成果はADにおける「交通渋滞」のメカニズムの一端を明らかにし、新たな創薬標的となることが期待されます。

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の博士後期課程の大学院生である金城那香さん、同学術研究院医歯薬学域の高杉展正准教授らのグループは、順天堂大学、東京大学との共同研究として、交通渋滞仮説と呼ばれるアルツハイマー病(AD)発症機構の一端を解明し、新規治療標的として有望であることを明らかにしました。
 ADは進行性の認知機能の低下を主訴とする神経変性疾患ですが、根本治療法は確立されておらず、詳細な発症メカニズムの解明と薬物標的の同定が必要です。これまでADの初期病態である輸送小胞(エンドソーム)の機能異常と肥大化による小胞輸送障害が発症端緒であるとする「交通渋滞仮説」が提唱されていましたが、そのメカニズムは不明でした。当研究グループはAD関連遺伝子APPの病的代謝物の一つβCTFの輸送小胞内の結合パートナーとしてTMEM30Aを同定しました。
 TMEM30Aは脂質二重膜の組成決定に関わり小胞輸送を制御するリピッドフリッパーゼの構成成分です。本研究では動物・細胞をもちいたAD病態モデルにおいてβCTFの蓄積がリピッドフリッパーゼの形成・活性を低下させることを明らかにしました。さらにTMEM30Aに由来するβCTF結合性のペプチドT-RAPを同定し、本ペプチドが小胞輸送障害を改善できることを示しました。
 本研究成果はAD発症機構の解明、及び新たな治療標的の同定につながることが期待されます。

◆研究者からのひとこと

リピッドフリッパーゼの活性測定については、従来の手法の多くが形質膜におけるリピッドフリッパーゼを対象としており、エンドソームにおける活性を測定することが難しかったです。
本研究で初期的な樹立を行なった活性測定系は、感度の問題など今後さらなるバリデーションが必要ですが、将来的に小胞輸送障害の定量測定系に応用できるのではないかと考えます。また、本研究で得られた知見が、ほんのわずかでも当該分野の今後の研究を発展させることができればと期待しています。

金城 那香 大学院生

■論文情報
論 文 名:Lipid flippase dysfunction as a therapeutic target for endosomal anomalies in Alzheimer’s disease
掲 載 紙:iScience
著  者:Nanaka Kaneshiro, Masato Komai, Ryosuke Imaoka, Atsuya Ikeda, Yuji Kamikubo, Takashi Saito, Takaomi C. Saido, Taisuke Tomita, Tadafumi Hashimoto, Takeshi Iwatsubo, Takashi Sakurai, Takashi Uehara, Nobumasa Takasugi
D O I:https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.103869
U R L:https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(22)00139-0


<詳しい研究内容について>
アルツハイマー病における「交通渋滞」解消の可能性~病態特異的な小胞輸送障害機構の解明と新規治療標的としての期待~

<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)
准教授 高杉 展正
TEL:086-251-7985

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