岡山大学考古学研究室

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定東塚・西塚古墳第3次調査概要報告

4.定西塚古墳

前庭部

石室1(石室の構造・閉塞施設・陶棺)

石室2(石室内遺物出土状況/前のページ)


遺 物

武器
 武器については、大刀と弓のそれぞれに関係する遺物が出土している。

 大刀に関係する資料としては、刀身片、青銅製の鞘尻と足金具が出土した。刀身片は4点出土しており、うち1点は鋒の破片である。青銅製足金具は環長径3.3cm、短径1.6cm、幅0.8cm、吊手孔径0.7cmである。環は倒卵形であり吊手孔の位置は直上よりも若干寄っている。また環の前後には幅0.15cmの青銅の針金を曲げた責金具状の金具が付くが、装飾的な意味合いをもった金具であろう。計3点確認されている。青銅製鞘尻は全長3.8cm、幅3.3cm、厚さ1.6cmを測る。内部には木質が良好な状態で残っており、一部に黒漆と推定される痕跡も確認できる。足金具と鞘尻は同一の大刀(方頭大刀の可能性が高い)に伴う装具と考えられる。

 弓に関連するものとして鉄鏃と両頭金具が出土した。

 鉄鏃は総計で61点出土しており、そのうち鏃身部の確認できるものが、有茎平根式10点、尖根式の長頸式が24点存在する。

 有茎平根式鉄鏃の内訳は方頭式5点、圭頭式3点、長三角形式2点であるが、このうち方頭式だけが頸部を持たず、鏃身部に直接茎がつく形態である。長頸式鉄鏃は片刃箭式21点、鑿箭式3点に分類できる。片刃箭式は鏃身に鈍角関を有するもの7点、関を有さないもの14点に分けることができ、さらに鏃身部の形態によって細分可能である。箆被関部に着目すれば、古墳時代後期に通有な台形関や棘状関がみられる。

 尖根式と平根式はそれぞれ実戦用・儀礼用という機能の差異が考えられており、副葬時の取り扱われ方にも違いが見られることが明らかになっている。今回の調査で西塚石室内においても、長頸式が2A、2B区付近、有茎平根式が1A区付近と、出土位置を異にする状況が明らかとなった。また様々な型式が見られ完形品も多いことなどから、副葬品における鉄鏃型式の組合せを考える上で重要な資料となろう。

 両頭金具は3点出土した。うち完形の1点は全長2.6cmである。構造は半球形の頭部を両端にもった鉄棒に、薄い鉄板を巻いて管をつくっており、継ぎ目が確認できる。管の両端には花弁状突起が認められる。

馬具
 定西塚石室内より轡1点、かこ2点、両頭鉄製品1点が出土している。

 轡は鉄製素環鏡板付轡で、かこ形の立聞がつくものである。ほぼ完形であり、鏡板、引手ともに左右の大きさ、長さが異なる。遊環は介さず、銜先環に鏡板、引手が連結する。一方の引手は長さ16.8cm、引手壺の径3.0cmである。残りの一方の引手は長さ14.5cm、引手壺の径2.9cmである。ともに両端は環状で、引手壺が外側に開く。二連の銜のうち一方は長さ9.3cm、銜先環の径は破損のために不明、銜を連結する環の径2.7cmである。残りの一方は長さ9.7cm、銜先環の径2.8cm、銜を連結する環の径2.4cmである。鏡板のうち1点は楕円形を呈しており、長さ6.5cm、幅6.3cm、輪金の径0.9cm、ホ具形の立聞の長さ2.6cm、幅3.5cm、刺金の長さ2.5cmである。残りの1点はいびつな楕円形を呈しており、長さ7.0cm、幅6.2cm、輪金の径0.9cm、立聞の長さ2.9cm、幅3.3cm、刺金の長さ2.3cmである。

 かこ2点は鉄製で、うち1点は長さ5.6cm、幅3.5cm、輪金の径0.6cmである。馬蹄形を呈しており、刺金は残存していない、もしくは存在しないものである。

 両頭鉄製品は頭部が鉄地銀張りのもので、一端は破損している。残存長6.3cm、幅0.6cm、頭部の径1.2cmである。定東塚石室内からも同様のものが出土している。

土器
 西塚では、石室から須恵器と土師器が出土した。須恵器では杯蓋、杯身、はそう、甕片が、土師器では杯身が確認されている。

 須恵器杯蓋は15点出土しすべて青灰色を呈する。うち12点が完形である。かえりの有無、つまみの形状から簡便に分類すると4種に分けることができる。第1は宝珠形つまみを有するもので5点出土している。第2はそれよりも扁平で大きなつまみを有するもので、2点出土している。かえりを有するが第1のものよりも小さく、後出の形態と考えられる。第3はつまみの頂部を平坦よりややくぼませたもので3点出土している。全体として厚ぼったいつくりで、かえりがほぼ消失している。第4はつまみが扁平で最も大形のもので2点出土している。高台付杯身とセット関係になり、かえりは有さない。

 須恵器杯身は青灰色を呈するものが13点、灰白色を呈するものが2点出土し、うち13点が完形である。口径、底部径、器高などの法量や、底部の形態などの諸特徴によって、何種かに分類可能である。高台付杯身は2点出土しており、外形を同じくし色調も青灰色である。

 はそうは底部の平坦な、肩の張ったつくりのものと、胴部が丸く小さいつくりで、口縁部が比較的広がったものの2点が出土している。これらはともに青灰色を呈する。

 土師器杯は赤褐色を呈し半球形をなすものが、大小2点出土している。外面調整、内面の放射状暗文、底部内面の螺旋状の暗文など、東塚石室出土の土師器杯に類似している。また、前庭部出土のものと接合する土師器杯身片が1点出土している。

 前庭部では須恵器甕片が数個体分、放射状暗文や螺旋状暗文の施された土師器杯身が大形のもの1点、小形のものの破片が出土した。

 ほかに後世の遺物として、皿が石室から、磁器片が石室、前庭部から出土した。

その他
 ここでは刀子片、鋲付金銅製品、青銅製鋲、不明骨製品、ガラス玉、鉄釘等を取り扱う。

 刀子片は2点出土している。1点は刃部のみ残存し、現存長4.4cm、幅1.1cmを測る。もう1点は刃部と茎の両端を欠損しており、現存長3.1cm、刃部幅1.4cmを測る。

 鋲付金銅製品は、薄い金銅製の金属板に穿孔を施し、3点の鋲を通している。鋲は青銅製で、鍍金は残存していない。長さ1.3cm、頭部径0.5cmを測る。

 青銅製鋲は現存長1.1cm、頭部径1.2cmで、脚部は欠損している。青銅製の径1.3cmの円盤の中央に穿孔して鋲を通している。

 不明骨製品は2点出土しているが、形状は全く異なる。1点は径4.2cmの円盤形で、中央に径0.5cmの円孔があり、端部に向かってやや外反する。紡錘車の可能性がある。もう1点は長軸3.7cm、短軸1.6cmの木葉形で、長軸上に径0.4cmの2つの円孔がある。

 ガラス玉は1点出土しているが、ほぼ半分が失われている。最大径1.3cmのほぼ球形を呈し、径0.3cmの穿孔が施されている。色調は白色である。

 鉄釘は少なくとも14個体出土しており、そのうち頭部の残存するものは10点を数える。それ以外にも鉄鏃と区別が困難な小片が多数あり、実数はさらに多いと考えられる。それらはほぼ大小2種に分類できる。大形のものは計7点あり、長さ8.2〜9.1cm、脚部の太さ0.6〜0.8cmを測る。断面形はほぼ正方形をなす。小形のものは計7点あり、長さ6.7〜7.6cm、脚部の太さ0.4〜0.6cmを測る。断面形は長方形をなす。いずれも頭部は先端を打ち延ばした後に折り曲げて成形している。木質の残存するものは11点を数える。木目が脚部の軸に対して上半が横方向、下半が縦方向のものが6点、上半、下半共に横方向のものが3点、上半のみ残存していて、横方向のものが1点、下半のみ残存していて、横方向のものが1点である。これらのうち棺材の厚さを推定できるものが5点あり、大形のもの、小形のもの共に3.0〜3.5cmと考えられる。なお、大形のもののうち、2点が交差して接着した状態で出土しているが、推定棺厚から判断して、これらは原位置から遊離した後にこのような状態となったと思われる。

 ほかに不明鉄製品3点、鉄滓が石室と前庭部で合計42点、前庭部から洪武通宝が1点、石室内より人骨と歯が出土している。

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