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病理と女性医師

病理と女性医師①


病理と女性医師


データにみる女性医師
医師数約28万人のうち女性医師数は17%を占め(厚生労働省2006年統計)、その割合は増加傾向にあります。第100回医師国家試験の合格者に占める女性の割合は32.7%です。近い将来、医師の3人に1人が女性となる計算です。しかし、常勤医を辞めたことがある女性医師は平均55%、生涯離職率は実に70%をこえています。離職時の年齢は86%が35歳未満です(東京医大・泉美貴先生調査結果)。
研修時代やキャリア形成をする時期は、ちょうど女性が結婚や出産・育児で第一線の職場から離れる時期に重なります。医師の勤務形態や労働環境はきわめて厳しく、女性医師にとっては過酷ともいえます。女性医師にとって、結婚・出産・育児と勤務医を両立させることは難しいのが現状です。常勤医として復職した女性医師は33%に過ぎません。


女性医師に最適な診療科としての病理
一方、病理医は女性医師の活躍が進んでいる分野です。多くの女性医師が全国で活躍しています。病理は患者さんと接する機会が少ないため、比較的自由に時間を使えます。臨床と家庭の両立が可能で、家事・子育てにも柔軟に対応できます。病理は他の臨床科ほど体力は必要ありません。早朝の出勤や夜勤・当直はありません。ワークシェアリングが可能です。時間的、内容的に見てもっとも女性に適した分野といえます。やりがいがない?そんなことはありません。病理診断は多くの疾患の最終診断となります。病理診断によって治療方針が決定するのです。待遇はよくないのでは?とんでもありません。他の臨床科とまったく同じです。受け持ち患者を持たないため、時間比率からみれば優遇されていると言えます。
 

病理と女性医師②


女性病理医師へのアンケート結果


日本病理学会公開シンポジウムより転用
(http://homepage2.nifty.com/marik/sakusaku/2_1.htm)
 

 a:病理が女性に向いていると考える理由(回答者30人)

●当直がない、受持ち患者がない、時間の融通が利く等、ライフスタイルにあわせた働き方ができる(21人)
 「自分に割り当てられた仕事をこなせば,患者の様態の急変で呼び出されるということがなく,家庭等にかける時間が比較的取りやすい」
 「当直や急な呼び出しがなく、マイペースで仕事が出来るので、家庭の事情で休んだり早く帰らなくてはならないときでも、あまり同僚に迷惑をかけずに仕事ができる」
 「予測外の仕事は病理解剖くらいで、仕事の予定がたてやすいため、家庭や子育てと両立できる」
 「一刻をあらそうというのは迅速診断くらい。女性医師に病理への志望を勧める時は『剖検にしてもご遺体は少しくらいなら待ってくれる』といつも言っている」
 「患者さんの状態に左右されず、ライフスタイルに合わせて仕事ができ、臨床と比較すると時間的な余裕があるが、昨今の病理医不足においてはそのメリットが薄れてきている」
● 職務内容が女性に向いている(9人)
 「こつこつと日々の単純作業を積み重ねて診断力を高めることに対する耐性が女性の方が強いと思う」 
 「何が病理診断に求められているのかを、臨床各科との上手な関係作りの中で感じ取り、実践していく能力は女性の方が優れているように思う。男性医師はとかく、自分の体面やポストにこだわりやすい」
 「診断病理は各科医師との連携が必要だが、男性医師同士よりも話がスムースにいくこともある」
 「病理診断に求められる思い切りのよさ、決断力というのは、女性の方に備わっているのではないか?」
 「ルーチン検査にすばやく対応する能力は、女性の方が平均的に揃っていてすぐれているような傾向があると
  思う。たとえば確定診断までに至らない症例に中間報告をつけたり、連絡をとったり。また写真撮影などを
  依頼された時、できるだけ早いうちに用件をこなし、期限ぎりぎり、ということは少ない気がする。ちなみにうちの検査室では、女性の方が報告までに要する平均日数が短い」
 「几帳面で、繰り返しの多い仕事なので、女性には向いていると思う」
 「緻密さと正確さを要求されることが多いので、一般的に女性向けといえるのでは」
 「パターン認識などは女性に向いているのでは」
 

 ● 体力的な不利が少ない(6人)

 「診断業務は座り仕事で肉体的には楽」
 「視力の低下は仕方ないが、細く、長く続けることができると思う」
 「体力による能力分類が比較的少ないこと。体力に自信の無い自分でも、まず『体力が無いからだめだ』という烙印を(表向きは)押されない。実際に男性外科医が特定の女性外科医をさして『体力が無いからだめだ、まずは山の頂上に登らないことには話にならないのに、山の斜面の途中でしゃがみこんだり、音を上げているようなものだ』と評しているのをきいたことがある
 
● 男女差が出にくい(5人)
 「積極的に女性に向いていると言うより、男性と女性の差があまり出ない職種だと思う」
 「診断病理に限れば、男性医師と遜色なく仕事をこなすことができる」
 「診断能力や服務態度で、客観的に評価してもらえる」
 「女性であることが有利にも不利にも働いた経験がないというのも、向いている理由の1つかもしれない。男女の別なく、全くイーブンに働け、評価を受けることができやすいと思う」
 「病理が男性に有利な点が特に見つからない」
 
● 育児負担、産休、育児休業などが不利にならない(3人)
 「一定期間、実際の仕事から離れていても仕事に復帰しやすい。したがって結婚や出産を機に、臨床から病理に変わる女性医師は多いのでは?」
 「産休、育児休業の間なども、顕微鏡と本があれば、自宅での勉強や仕事もかなりできるように思う」
 「仕事を変わってもらう、負担してもらう、という後ろめたさを感じないように工夫できる」

b:病理が女性に向いていないと考える理由(回答者4人)
 「性別での向き不向きはないと思うが解剖台の高さが女性にはあわない。待遇・条件面では病理医はマンパワーがなく、仕事量は多く、常勤医としてはきついと思う。非常勤ならいいと思う」
 「病理診断だけでは男性医師と変わらないと思うが、病理部の運営や臨床検査部の運営となると管理能力を要しますが、全体を見渡すという能力が生物学的に女性のほうが乏しいと思う」
 「患者に会うことがなく,自分の殻に閉じこもることも可能という現在の状態では『ひきこもり』率の高い男性向きといえるかもしれない。現に男性病理医の中には『ひきこもり』体質の人が多いように感じるし,女性にはあまりその傾向は見られないように思う」
「未固定手術材料の処理や解剖業務など母性保護の点でむしろ危険と思われる業務もある」 
c:どちらともいえない理由(回答者5人)
 「向いている点もいない点もある」
 「個人の生活パターンと病院側の雇用条件、子供が居た場合周囲のサポートの有無や、地域差(保育園の数)などが関係していると思う」
 「男性でも女性でも、意欲を持ってきちんと丁寧な仕事をやっている先生は病理に向いており、そうでない先生は向かないと思う」
 「女性には向いていないという意味ではなくて、男女を問わず人によって、向き不向きがあると思う」
 「性別とは関係なく本人の資質の問題だと思う」