国立大学法人 岡山大学

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使用済み核磁気共鳴装置(NMR)からヘリウムガスを回収~「中四国・播磨ヘリウムリサイクルネットワーク」に向けた大きな一歩~

2025年10月28日

 本学は愛媛大学と協力して、9月9日と9月30日に、愛媛大学城北キャンパス(松山市)において、同大学が使用済みとなった核磁気共鳴装置(NMR)からヘリウムガスを回収する取り組みを実施しました。
 これは、本学が推進するヘリウムリサイクル事業「中四国・播磨ヘリウムリサイクルネットワーク(通称:中四国・播磨HeReNet)」の一環として実施されたものです。また同時に、使用済研究機器設備などから液体ヘリウムを回収する「HeliGet」事業の始動を意味します。今回の取り組みは、両事業における外部機関からの回収の第1号であり、希少なヘリウム資源の有効活用と、地域における安定的な供給体制の構築に向けた重要な一歩となります。
 今回、「これまでNMR廃棄時にヘリウムが大気放出されてきた現状を改善したい」との強い思いを持つ愛媛大学学術支援センター(ADRES)物質科学研究支援部門の鎌田浩子副技術長と、装置メーカーの協力も得て、回収が実現しました。まず9月9日に同大学を訪問し、ヘリウムガス回収に使用する5個のガスバッグとホースの接続を確認。愛媛大学が保有するガスバッグ1個も活用し、合計6個のガスバッグを準備しました。その後、鎌田副技術長が約2週間かけて、使用済みNMRからヘリウムガスの回収作業を進めました。ガスバッグが満タンになると、次のガスバッグにホースをつなぎ替える作業をスムーズに行い、効率的な回収を実現しました。
 9月30日には、本学から畑中耕治副タスクフォース長・機関連携部門長をはじめ、技術職員2人、事務職員2人が現地に赴き、実証実験に参加。電源を必要としないガソリン式圧縮機を使い、ガスバッグに溜まったヘリウムガスをガスボンベに圧縮する作業を実施。作業は2時間足らずで完了し、約6.2㎥のヘリウムガスを回収することに成功しました。回収されたヘリウムガスは、本学津島キャンパスの液化機に供給され、再利用されます。
 今回の愛媛大学におけるヘリウムガス回収の成功は、「中四国・播磨HeReNet」および「HeliGet」事業の大きな一歩となります。また本学は、今回の実証実験で得られた知見や経験を生かし、今後、連携機関とともにヘリウムガスの回収を行うフェーズ1を順次始動していきます。
 液体ヘリウムは、超伝導磁石を用いた核磁気共鳴画像法装置(MRI)やNMRといった最先端医療・研究機器など、幅広い分野で不可欠な極低温冷却材として利用されています。しかし、液体ヘリウムの多くを輸入に頼る日本において、近年、世界的な需要増加や地政学的リスクの高まりから、価格高騰や供給不安が深刻化しています。このような状況を受け、本学は2024年度から、中四国・播磨地域の大学や研究機関、高専で大気放出されるヘリウムガスを回収・再液化し供給する「中四国・播磨HeReNet」を立ち上げました。
 本事業にあたっては、文部科学省からの支援を受け、2026年度末にヘリウム液化装置および周辺設備の更新を予定しています。新たな装置は既存装置の約2倍の液化能力を備えており、より効率的なリサイクル体制を構築することを目指しています。加えて、「中四国・播磨HeReNet」に参画する連携機関向けに、ヘリウムガス回収用ガスバッグや圧縮機等の整備も行う予定です。
 さらに、今回の使用済研究機器設備から液体ヘリウムを回収する「HeliGet」事業も企画・運営をはじめています。従来の設備更新の際には、貴重なヘリウムがそのまま大気中に放出されていましたが、これらを有効活用し、資源の循環型利用を促進する試みです。
 本学は、地域の中核大学特色ある研究大学として「中四国・播磨HeReNet」および「HeliGet」を通じて、学内のみならず近隣の大学・研究機関、高等専門学校、企業等に液体ヘリウムを供給することで、液体ヘリウムを使った研究・開発の裾野を大いに拡げることを目指します。これは、ひいてはわが国の研究力向上・イノベーション創出強化等につながると期待されます。引き続き、本学と参画機関の挑戦に、どうぞご期待ください。

〇那須保友学長のコメント
 今回の愛媛大学との連携によるヘリウムガス回収は、「中四国・播磨HeReNet」だけでなく、使用済設備からヘリウムを回収する「HeliGet」事業の重要な一歩でもあります。これは、地域におけるヘリウムリサイクルネットワーク構築への強い意志を示すものです。本学は、これまでも、地域社会との連携を重視し、持続可能な社会の実現に貢献してまいりました。液体ヘリウムは、研究開発だけでなく、医療や産業など幅広い分野で不可欠な資源です。今回の取り組みを通じて、貴重なヘリウム資源を有効活用し、地域全体の発展に貢献していきたいと考えています。
 また、今回の成功は、大学間の連携がいかに重要であるかを改めて示しています。今後も、「中四国・播磨HeReNet」および「HeliGet」事業を推進し、より多くの大学や研究機関と協力関係を築き、地域に根ざした強固なヘリウムリサイクルネットワークの構築を目指していきます。

○「中四国・播磨HeReNet」で計画中の実証実験
 フェーズ0:本学にて連携機関の環境を再現した実証実験
 フェーズ1:連携機関にて発生したヘリウムガスを現地でガスボンベに回収する実証実験
 フェーズ2:連携機関に少量の液体ヘリウムを運びつつ発生したヘリウムガスを回収する実証実験
 フェーズ3:連携機関にフェーズ2よりも多くの液体ヘリウムを運びつつヘリウムガスを回収する実証実験
 段階を分けて実験を行い、着実な取り組みが実現できるように計画しています。

<参考>
わが国の研究力の基盤を支える液体ヘリウムの利用促進・安定供給に向けて11大学・高専等と意見交換を実施
「中四国・播磨ヘリウムリサイクルネットワーク」始動に向け学内説明会を実施
「中四国・播磨ヘリウムリサイクルネットワーク」始動に向けた学外説明会を実施
「中四国・播磨ヘリウムリサイクルネットワーク」始動 ヘリウム回収実証実験を開始
“人機一体”の研究基盤を強化推進するために「研究機器の共用の体制・整備等の強化促進に関するタスクフォース」が始動
岡山大学 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)

【本件問い合わせ先】
研究機器の共用の体制・整備等の強化促進に関するタスクフォース(略称:チーム共用)
機関連携部門
TEL:086-251-8705
E-mail:herenetoffice◎adm.okayama-u.ac.jp
     ※@を◎に置き換えています。

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