国立大学法人 岡山大学

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がん幹細胞から生まれる細胞が幹細胞自身を養う 世界で初めて証明

2013年12月09日

 岡山大学大学院自然科学研究科ナノバイオシステム分子設計学研究室の妹尾昌治教授、水谷昭文助教らの研究グループは、マウスiPS細胞から作成したがん幹細胞を用いて、がん幹細胞から分化したがん細胞が、がん幹細胞自身の維持に必要であることを世界で初めて明らかにしました。
 本研究成果は2013年12月3日、がん研究の国際科学雑誌『International Journal of Cancer』電子版で公開されました(米国東部時間:同日午前2時2分)。
 昨年、世界で初めてマウスiPS細胞からがん幹細胞を作り出したことに続き、がん幹細胞から分化してできる細胞が、がん幹細胞自身を養うことを明らかにした今回の研究成果は、子が親を養う社会性ががん細胞にも存在することを示すものです。今後、これまで明らかにされていなかったがん組織の実態を解明し、がんの治療法を新しい観点から見出す鍵となることが期待されます。
<業 績>
 岡山大学を中心とするアメリカ国立がん研究所、中国天津医科大学などの国際共同研究グループは、マウスiPS細胞から作成したがん幹細胞 1) を用いて、がん幹細胞から分化したがん細胞が、がん幹細胞の微小環境を作り出し、がん幹細胞自身を維持していることを世界で初めて明らかにしました。
 がん幹細胞の自己複製能と分化能は、がん幹細胞の微小環境により制御維持されています。しかし、その微小環境の実態、特に分化して生じた細胞の寄与については分かっていませんでした。
 本研究では、がん幹細胞が分化して生じた細胞から分泌される因子が、がん幹細胞内の特定のシグナル伝達経路を活性化し、がん幹細胞の自己複製を促進していることを示しています。がん幹細胞は、その一部が血管内皮細胞やがん組織を構成するがん細胞へ分化して腫瘍を形成し、これらの分化した細胞ががん幹細胞自身を維持するために重要な働きを担っていることが、今回の研究結果からわかりました。

<見込まれる成果>
 がん幹細胞を培養していると、分化した細胞が現れ、未分化な細胞と分化した細胞が不均一な状態で存在するようになります。このように腫瘍はがん幹細胞とそれが分化した細胞により構成され不均一な組織として成長していきます。この組織の中で細胞同士は互いに依存した階層社会を形成していることが示されました。このようながん組織の実態を新たに明らかにしていくことで、今後、がん治療法を新たな観点から開発して行く大きな鍵となるとことが期待されます。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費挑戦的萌芽研究、基盤研究(B)および(C)の助成を受け実施しました。

<補 足>
1) 2012年3月29日、岡山大学大学院自然科学研究科の妹尾昌治教授らの研究グループが、マウスのiPS細胞を用いてがん幹細胞のモデルの作成に世界で初めて成功しています。
 (岡山大学プレスリリース://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id1574.html

発表論文はこちらからご確認いただけます
Cancer stem cells maintain a hierarchy of differentiation by creating their niche.
Shuichi Matsuda, Ting Yan, Akifumi Mizutani, Tatsuyuki Sota, Yuki Hiramoto, Marta Prieto-Vila, Ling Chen, Ayano Satoh, Takayuki Kudoh, Tomonari Kasai, Hiroshi Murakami, Li Fu, David S. Salomon and Masaharu Seno.
Accepted manuscript online: 3 DEC 2013 02:02AM EST | DOI: 10.1002/ijc.28648

参考論文 1) Chen L, Kasai T, Li Y, Sugii Y, Jin G, Okada M, Vaidyanath A, Mizutani A, Satoh A, Kudoh T, Hendrix MJ, Salomon DS, Fu L, Seno M. A model of cancer stem cells derived from mouse induced pluripotent stem cells. PLoS One, 2012, 7(4), e33544; (doi: 10.1371/journal.pone.0033544).
概念図

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院自然科学研究科
   ナノバイオシステム分子設計学研究室
   教授 妹尾昌治、助教 水谷昭文
(電話番号)086-251-8216(妹尾)、8209(水谷)
(FAX番号)086-251-8216
(URL)http://www.cyber.biotech.okayama-u.ac.jp/senolab/

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