神経生理学 Neurophysiology

ヒトや動物から記録された脳波や誘発反応などを基に、難治てんかんや発達障害などの病態解明やよりよい治療方法の確立を目指す研究や認知機能の研究を行っています。脳波や誘発反応は生態信号ですので、その分析には音声処理などと同様のデジタル信号処理技術を用いています。また、よりよい解析方法の発見のため、MATLAB®等を用いた独自のデジタル信号処理・解析プログラムの開発も行っています。

高周波解析

脳波や誘発反応には肉眼では見えないよう非常に周波数の高い活動(高周波)が含まれています。高周波は認知活動にかかわっており、外界の認識や記憶の形成などに深くかかわっています。また、てんかん患者の脳では、てんかん焦点における異常高周波活動の存在が確認されています。これらの高周波活動を見つけ出して解析することにより、ヒトの認知過程を明らかにしたり、てんかん焦点のより正確な決定したりできる可能性があります。そのため、高周波活動を自動検出する技術、検出した高周波をカラー画像で可視化する技術を開発しています。また、けいれんのモデル動物での高周波解析を行い、てんかんの発症メカニズムを明らかにする研究を行っています。


頭蓋内脳波を用いた、てんかん発作時の異常高周波活動の可視化技術

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発作活動の始まる部位や、その伝播様式を脳表の写真上に直感的に
動画として表示することができる(独自開発のプログラムによる)。
てんかん外科の手術戦略の決定に役立つ可能性がある。
Epilepsia 2006;47:1953-7(表紙画像に採用)


熱性けいれんモデルラット(Scn1a変異)での脳波の高周波解析

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間代けいれん中のてんかん性棘波に先行する高周波成分の解析(フィルタリングと
Gabor変換によるスペクトログラム表示、解析は独自開発のプログラムによる)。
Epilepsy Res 2013;103:161-6


頭蓋内脳波におけるてんかん性異常高周波活動の自動検出と可視化技術

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てんかん焦点の代理バイオマーカー(surrogate biomarker)と考えられている
ripples(80-200Hzの高周波活動)、fast ripples(200Hzを超える高周波活動)を
自動検出し(紫のマーク)、脳表写真上にカラー画像として投影する
(解析は独自開発のプログラムによる)。
てんかん外科の手術方針の決定に有用な可能性がある。
Epilepsia 2011;52:1802-11


てんかん発作の検出補助技術の開発

てんかん発作では、明らかな発作症状が目に見えない場合があります非けいれん性発作)。集中治療の場では非けいれん性発作はわりと多く、これを見つけるために長時間(最低24時間)の脳波記録が注目を浴びています。しかし、専門医以外による発作の検出には課題が多いのが現状です。このため、誰にも分かりやすい発作検出の補助技術の開発を行い、臨床応用に向けているところです。


長時間脳波記録中に起こった非けいれん発作のカラーグラフィカル表示法の開発

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従来用いられていたamplitude-integrated EEGに改良を加え、
振幅情報のみならず周波数情報も同時にカラー表示した
(解析は独自開発プログラムによる)。
発作の部分が明るい緑色で表示されている。
Brain Dev 2015;37:487-94

神経心理学 Neuropsychology

主に以下の研究を行っています。行っている神経心理学検査のリストはこちら

定型発達児における認知機能の発達的評価

言語性および視空間ワーキングメモリ、選択的注意、反応抑制などの高次脳機能の小児期から成人に至る発達的変化を、様々な神経心理学検査を用いて評価しています。他にも仮名や漢字の読み書き、計算など学習面の発達的変化を就学前から調査しています。

発達障害やてんかんなどの神経疾患を有する子ども達の認知機能評価

広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、学習障害(読み書き障害、算数障害)といった発達障害を持つ子ども達は、認知機能に様々な問題を抱えており、日常生活に多くの支障をきたしています。これらを十分に評価することは、発達障害の病態解明につながり、また、発達障害を有する子ども達の治療教育にとって大変重要になります。てんかんなどの神経疾患を有する子ども達や成人についても同様に評価を行っています。

神経画像解析 Neuroimaging analysis

高解像度の脳MRI画像データに対してコンピュータによる画像計算や画像処理を行い、肉眼ではなかなか分からない病変(限局性皮質形成異常など)の検出率の向上を目指しています。


MRI画像処理による限局性皮質異形成の検出

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難治てんかんの焦点検索には、それに特化した3テスラMRIの撮影シークエンスを用いている。
その1つである高コントラストの3D-T1強調画像(MPRAGE法)に画像計算処理を行い、
皮質の厚みを計算している(解析には独自開発したプログラムを使用)。
病変部位では皮質の肥厚が明瞭である。


画像の統計解析による限局性皮質異形成の検出

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患者から得られた3D-T1強調MRI画像を、多数の被験者からの画像と統計学的に
比較することにより、灰白質容量の異なる部分を見つけ出すことができる。
この画像では、1つ上側に示したMRI画像に対してvoxel-based morphometry(VBM)という
手法による画像統計解析を行い、統計学的有意差のみられた部分を表示している。
有意差のみられた部位は、上側の画像で皮質が肥厚した部分に該当している(注:表示は左右逆)。

神経代謝学 Neurometabolics

子どもでは見落とされがちな神経伝達物質病の早期発見や、新生児期・乳児期発症の難治てんかんの病態解明のため、髄液中の種々の神経伝達物質やビタミン類の測定・研究を行っています。

HPLCを用いた代謝疾患マーカーの研究の他、岡山大学自然生命科学研究支援センター分析計測分野と共同して、LC/MS/MSやNMRによる代謝物質の測定研究も行っています。


液体クロマトグラフィによる代謝物質測定

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HPLC装置が日夜稼働し、種々の代謝物質測定を行っている。
蛍光検出装置(右上)による高感度測定(nmol/Lレベル)が可能である。
測ってみたい物質がありましたら、ご相談ください。

NMRによる尿中代謝物質測定

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健常人の尿中代謝物質スペクトルの一部。
代謝物質に対応する多数のピークがみられる。
赤色はクレアチニン(濃度の基準物質)、青色はクエン酸。

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