槇野学長からのメッセージ

国立大学法人岡山大学 学長
槇野 博史
岡山大学は今から70年前、幕末の岡山藩医学館をはじめとする歴史ある高等教育機関群によって総合大学として創立されました。2020年には、本学の医学部は創立150周年を迎えます。
この長い歴史の中で、本学は、10学部8研究科4研究所、大学病院そして附属学校園という大きな規模にまで発展することができました。本学は、「晴れの国」とも呼ばれる穏やかな気候の岡山市中心部に、緑豊かな広大なキャンパスを有し、恵まれた環境のもと、現在約2万人の学生、留学生、教職員が日々研鑽を積んでいます。
本学はその建学の理念として、“高度な知の創成と的確な知の継承”を掲げています。すなわち、私たちは人類社会を安定的かつ持続的に進展させるために、常に新たな知識基盤を構築していかねばなりません。本学は、公に開かれた知の府として、教育・研究・社会貢献などの活動を通して、高度な知を生み出し、的確な知を次世代に引き継ぎ、人類社会の発展に貢献したいと考えています。
本学はその理念の実現に向け、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援(Top Global University Project)」事業を通じて、学生が主体的に学修し、グローバルに活躍できる実践人として羽ばたく環境・体制づくりを推進しています。また、「研究大学強化促進事業」、日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的医療技術創出拠点」などに選定された研究大学として、本学の特色でもある異分野融合の取り組みなどを推し進めながら、世界的な学術研究成果も上げています。
本学はこれまで、岡山ならではの「学都」を創生する取り組み、すなわち「学都構想」を継承してきました。私は学長就任に当たり、新ビジョン「超えていく、実りの学都へ」を提唱し、それぞれが異なるカラーを持つ学部や研究科等が垣根を越えてその成果を実質化し、社会に還元する「彩(いろどり)あるAcademia」を形成していくことを目指しています。
これからの人類社会が直面する多くの課題は、世代、分野、文化、思想、国境など、さまざまな要素がこれまで以上に複雑に絡み合ったものであることが予想されます。私は、「和顔愛語(わげんあいご:和やかな顔とやさしい言葉)」を合い言葉にリーダーシップを取り、「知」の源となる好奇心の種を共有しながら、課題解決に取り組む”世界最高水準の人材”を育成していきたいと考えています。岡山ならではの世界に輝く「実りの学都」をつくり上げるため、全力を尽くして取り組みます。これからも岡山大学へのご理解とご支援を宜しくお願いいたします。
槇野ビジョン
しなやかに超えていく「実りの学都」へ
2017年4月
国立大学法人岡山大学 第14代学長 槇野博史
- はじめに
これからの岡山大学の4年間は、地域社会から国際社会まで様々にその存在意義を問われる、これまでにも増して難しい局面を迎えると認識しております。皆さんと一緒に知恵を出し合い、多くの課題をしなやかに乗り超え、地域のトップランナーの一つである岡山大学から新たな知の創生を発信することにより、岡山大学が日本と国際社会に貢献する「実りの学都」になるよう、精一杯努力をしたいと思います。
これからの岡山大学が進むべき方向性を皆さんと共有するために、現時点における私のビジョンをお示しいたします。
- 目標と現況
彩(いろどり)あるAcademiaの形成
これまで千葉喬三元学長は「学都・岡山大学の創成」を、森田潔前学長は「美しい学都」を築かれてきました。これからなすべきは「学都の実質化」であり、正にそれが「実りの学都」の実現だと私は考えています。そのためには、岡山大学の11学部・7研究科・3研究所が互いの壁を超えて目標を共有し、岡山大学ならではの「彩(いろどり)あるAcademia」即ち、「Meta(超越した)-Academia」を形成することが不可欠です。この変化が学生・教職員・社会の皆様に実感されてこそ「学都の実質化」であり、目指す「実りの学都」だと思います。
2004年の法人化以降、我が国全体で総額1,470億円の大学運営費交付金が削減され、それに伴う各大学の基盤経費減少が喫緊の課題となっています。また、2017年度から始まる「指定国立大学法人制度(仮称)」は、国立大学の存在価値を根本から問い直すものでもあり、これからの大学運営には、企業経営にも匹敵する発想力と行動力、そしてバランス感覚を持った財務基盤強化に向けた確実なアクションが求められています。そのため大学マネジメントのあり方も、大胆かつ大幅な変革の必要に迫られており、現行事業の継承だけを前提にした執行組織体制では、全く機能しない可能性が高いと考えます。海外と伍す卓越した教育・研究と社会実装の企画・経営の改革には、明日を担う若手教職員や外部人材を活用したいと思います。さらに外部との連携により、大学の財政基盤を強化する部門や企画を拡大していく方策を執る必要があると考えます。
私はこれまで、京都・三千院でお教え頂いた「和顔愛語(わげんあいご)」を座右の銘としてきました。私が大好きなバスケットボールで例えるなら、チームを勝利へと導くためにリーダーが求められる役割は、それぞれの選手の強みを最大限に活かすことです。リーダーは、各チームメンバーが既に持っている強みと自律性を伸ばして、より高い目標に向かって方向性を合わせるように、笑顔で何でも語り合えるような環境づくりを行うことが重要です。私はそれを「和顔愛語のリーダーシップ」と呼んでいます。これは「様々な変化に素早く対応できる」大学運営の組織づくりにも通じる考え方であり、この「しなやかな和顔愛語のリーダーシップ」を合言葉に、これからの難局を皆さんと協働し、乗り超えたいと思います。
- 学都実質化の具体的施策
- 「しなやかな」大学の運営 - IRで組織・プロジェクトのリ・デザイン-
IR(Institutional Research)とは、「機関研究活動」とも訳されますが、その業務の本質は、「必要な時に、必要な学内情報を、必要とする職員・部署に提供する」ことにあります。そしてその情報が、大学の教育・研究活動や、学生支援、経営等に活用され、新たな部門間連携や新事業創出等につながり、組織運営全体が活性化し、設定された達成目標のベンチマークに到達することを目指します。学生、地域、そして世界の皆さんに「彩(いろどり)のある実りの学都」を実感してもらえるよう、しっかりリーダーシップを取っていくことが、IRを活用した「和顔愛語の経営基盤強化策」です。
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IR(Institutional Research)とは、「機関研究活動」とも訳されますが、その業務の本質は、「必要な時に、必要な学内情報を、必要とする職員・部署に提供する」ことにあります。そしてその情報が、大学の教育・研究活動や、学生支援、経営等に活用され、新たな部門間連携や新事業創出等につながり、組織運営全体が活性化し、設定された達成目標のベンチマークに到達することを目指します。学生、地域、そして世界の皆さんに「彩(いろどり)のある実りの学都」を実感してもらえるよう、しっかりリーダーシップを取っていくことが、IRを活用した「和顔愛語の経営基盤強化策」です。しかし、そこで重要なのは、如何に教職員皆さんの現状を正しく把握し、一人でも多くの皆さんと率直な意見交換をしていくかということです。
私はこれまで病院長として、岡山大学病院のより効率的・効果的な運営にIR並びにMBO(Management By Objectives;目標による管理)の取り組みを続けてきました。そこにも和顔愛語を念頭に置いた意見交換と情報共有を心がけました。結果として、各診療科、各部署の皆さんと力を合わせた病院運営により、5年間の任期中に黒字を計上することができました。これからは各構成員の自律性を尊重し、自己統制(すなわちセルフコントロール;S)を加えた、MBO-Sの活動並びにIRの推進による大学全体の情報共有に取り組むことで、組織・プロジェクトのリ・デザインを加速させたいと考えています。
- 自律的な学修と研究の実質化 -「Act Locally, Think Globally」-
これまで岡山大学は、DP(ディプロマポリシー)、CP(カリキュラムポリシー)、AP(アドミッションポリシー)の策定はもちろん、スーパーグローバル大学創成支援事業、60分授業・4学期制や国際バカロレア入試等、文部科学省と連携して様々な教育における制度改革を絶えず実施してきました。今後は、私が推進する「Act Locally, Think Globally」の価値観を皆さんと共有し、留学におけるインバウンド、アウトバウンドの活性化に注力したいと思います。また、60分授業・4学期制は学生の主体的学修を推進するための大きな制度改革です。その一方で、教職員に負担感が強いことも指摘され、制度改革の成果と課題を整理して柔軟な運用を推進する時期に差し掛かっています。
私は、大学教育の目標である学生の主体的な学修を推進するとともに、岡山大学における明確なアセスメント・ポリシー(評価のための尺度)を策定し、60分授業・4学期制に限らず教育課程や教育方法をIRで検証しながら、常に見直しも視野に入れて改善していく、三つのポリシーに基づいた全学的な教学マネジメントを確立していきたいと考えます。そして、来るべきAI時代、すなわち人工知能時代の教育に備えて、私たちの英知と経験をしっかりと実質化しておく必要があると考えます。
研究については、国連による「Sustainable Developmental Goals (SDGs) 2015」の発表にもあるように、社会の課題疑問に応える科学の推進が国際社会の潮流です。例えばEUによる科学技術政策である「Horizon 2020」においてはすべての研究課題において人文社会科学の協働を求める内容が打ち出されています。その中で、岡山大学は臨床研究中核病院、橋渡し研究促進ネットワーク等に採択され、更に惑星物質研究所や異分野基礎科学研究所の設立だけではなく、IAEA(国際原子力機関)との新しいがん治療法に関する協定といった特筆すべき成果も上がっています。さらに、研究大学強化促進事業の支援対象機関に選定・採択されるという大変光栄な機会に恵まれました。今後も熾烈化するこれら大学間競争に生き残っていかなければなりません。そのためには、岡山大学の特色である異分野融合を推進し、岡山大学グローバル最先端異分野融合研究機構の拠点形成による国際協働に加えて、各学部・研究科・研究所などの研究力を強化することで、切磋琢磨しながら次世代を拓く更なる異分野融合の醸成や新たな強みを創出すること、他方で「大学研究力強化ネットワーク」などの研究大学グループにおいて基幹的役割を担うことなどが重要だと考えます。
学部・研究科の垣根を超えたアカデミア(Meta-Academia)という発想を大学全体に広げることによって、岡山大学の新たな「知の創生」に繋げたいと思います。
- 「超える」社会貢献 -社会との連携を通じて新たな大学の価値を創造-
「学都構想」の実現には、地域と大学が連携した魅力的な街づくりと、グローバル人材育成による地域活性化の拠点形成が必要です。その中で大変有り難いことに、産学官金(金融)言(言論)の方々のお力添えにより、地域の様々なセクターのキーパーソンが一堂に会し意見交換を行う「おかやま円卓会議」と「おかやま地域発展協議体」が設立されました。また岡山大学はこれまで、大学の各部局、旧六医科大学(6大学)、政府の各組織と地元岡山の各団体、産学官が大きなネットワークを形成し、我が国にとって大切なアジア支援の一つであるミャンマーへの各種支援にも携わってきました。
今後も6大学ネットワークに代表される大学間連携の強化により、“地域”という世界にとっても早期解決が求められる諸課題の宝庫から、地方大学ならではの発想と機動力で、教育・研究を通じた新たな社会貢献のアイデアを提案し続けたいと思います。岡山大学はこれからも「実りの学都」創生に向けて、地域と教育再生、地域と技術・環境、地域と医療、まちづくりなど、地域との協働並びに国際協働に関する様々なテーマへの取組みを発展させ、ひいては地域の価値をより高めて参ります。
現在、森田前学長がリーダーとなって進めている「岡山大学メディカルセンター(OUMC)構想」も、岡山大学病院が岡山市内の公的5病院と協働と情報共有の事業連携によって地域により良質で安全な医療提供体制を構築しようとする、社会貢献の先駆的取組みです。本構想の推進にあたっては、地域医療の安定的な提供と共に岡山大学全体の発展も見据えつつ、関係者間、特に教職員との信頼関係と十分なコミュニケーションを大切にしながら、その社会的責任をしっかりと果たしていきます。
- むすび
本ビジョンの冒頭でも述べたように、岡山大学のこれからには様々な難局が予想されます。その中で、学長としてこの困難な時期を乗り切り、世界中の学生が入学したい、教職員が働きたいと思っていただける大学にすることが私の使命だと考えています。
そのために私が重要だと思っている事を3つお示ししたいと思います。
1つめは、これからの岡山大学を牽引するリーダー達を支え、導き、繋がりながら共に働いてくれる、素晴らしい次世代を発掘することです。
2つめは岡山大学の強みである、総合大学の特性を活かした実践人(実践の現場で適切な判断をくだすことができる能力《実践知》を有する人)の育成です。
そして最後は、豊かな教養とアントレプレナーシップ(起業家精神)を持つ学士、修士、博士そして教職員の継続的な輩出です。
私が考える大学の最も重要な使命は、教育・研究を通した世界最高水準の人材育成です。大学生時代、腎臓の講義で「なぜ糖尿病でネフローゼ症候群になるのか?」と疑問を抱き、それが私のライフワークとなりました。教育・研究とは、ロマン・夢を語る事により、学生に「好奇心の種」を撒く事だと思っています。大学を取り巻く環境が今後どのように厳しくなろうとも、11学部・7研究科・3研究所、大学病院そして附属学校全体を俯瞰的に捉えて運営しながら、常に学生、研究生、教職員そして社会の皆さんと共に和顔愛語のコミュニケーションで『直面する課題』だけでなく『好奇心の種』を共有し、「しなやかな舵取り」で困難な時期を乗り切ることによって、岡山大学を世界の学生や教職員にとって憧れの大学とすることが、私に与えられた大切な役割だと認識しています。
槇野ビジョン 概要図はこちら